生涯発達-キーワード
発達
受精から死に至るまでの時間系列に沿った心身の質的・量的変化。
発達には
①系統的発生的特性:生物学的に種として人間に特徴的な、個人の経験とは独立したもの
②個体発生的特性:環境的変動因に応じて、個人によって違いが出てくるもの
発達の原理
個人が社会的に期待されている健全な発達を遂げるために、乳幼児期から高齢期までの描く時期に達成する必要がある課題。
認知発達の段階(ピアジェ)
感覚運動期(誕生~2歳)
→知覚と運動が言語を介せず直接結びついた状態。
段階1:生得的な反射からシェマへ
段階2:ふたつ以上のシェマの協応、第一次循環反応の形成(自分自身に対する探索行動)
段階3:第2次循環反応の形成(外部の世界に対する探索的行動)
段階4:手段と目的の分化(欲しいものを取ろうとする時、まずその前にある邪魔なものを取り除くことができるようになる)
段階5:第三次循環反応の形成(目的に到達するために試行錯誤する)
段階6:洞察的な問題解決(試行錯誤なしに問題解決が出来る)
前操作期(2~7歳)
→模倣やごっこ遊びなど、記号的機能を示す。大人と同じような概念は成立していない。
段階1:前概念的試行段階
段階2:直観的試行段階
具体的操作期(7~11歳)
→様々な論理操作が可能になるが、まだ試行材料の具体性に縛られる。
形式的操作期(11~15歳)
→思考の完成形態。具体的内容に依存せず、仮想の問題や事実に反する事態などについても論理的に思考が可能。
発達課題
人が健全で適応的な発達を遂げる為には、それぞれの発達段階において習得しておくべき課題がある。それを発達課題という。もし発達課題を習得できなかった場合には、後の段階において大きなハンディキャップを負うことになる。
発達の研究法
時間の経過とともに個人の質的・量的変化がどのように生じるのかについて、横断的研究法と縦断的研究法という二つの方法がある。
横断的研究法:ある時点における被験者(群)に生じた現象を観察・比較する
縦断的研究法:同一の個人または集団に生じる現象を、時間を追って観察していく
コホート分析:同一体験をした集団、同一時期に生まれた人を対象に分析を行う
生理的早産
人間は妊娠期間や子供の数では乖巣性の動物に似ているが、誕生直後の姿は就巣性に似ている。人間が乖巣性の動物の条件を満たすにはもう一年母親の胎内にいることが必要だとしてポルトマン(Portman)は、人間の出産を生理的早産もしくは二次的就巣性と呼んだ。
生理的微笑
生後1ヶ月ごろまでに現れる反応。刺激に対して非選択的にまどろんでいる状態で微笑を示すこと。その後生後2~3ヶ月の間、覚醒した状態で人の顔に向かってほほ笑むようになる。
社会的微笑
4、5ヶ月頃からは、親しい人にだけ選択的にほほ笑むようになる。微笑みながら発声が伴うようにもなり、微笑が有効なコミュニケーションツールとなっていく。
愛着
愛着とは、ボウルビー(Bowlby)によれば、子供が特定の人との接近を求めまたそれを維持しようとする傾向、あるいはその結果確立される情緒的きずなそのものをいい、それは人間の発達全体の基盤となることをいう。
愛着行動
定位行動:人に対して注意を向ける行動(注視、後追い、接近など)
発信行動:他者を呼び寄せるための行動(泣き、微笑、発声など)
能動的身体接触行動:身体的能力と認知能力が発達するにつれてみずからとる行動(よじ登り、しがみつき、抱きつき)
馴化―脱馴化
乳児は最初刺激を与えられると注意を喚起されるが、それを繰り返すと馴れ(馴化)が生じ、刺激に対する注視反応は減少する。そこで別の刺激に切り替えて提示すると、注視反応が増加する(脱馴化)。
視覚的断崖
視覚的断崖の実験装置(強化ガラスで覆われた高さのある所を、子供がその深さを知覚して避けるか調べる装置)を用いた実験。
強化ガラスの端と端に母親とこどもを配置して実験を行う。母親がほほ笑んでいる場合は強化ガラスの上にのって母親に近づいてきたが、こわがっている表情の場合は決してガラスの上には乗らなかった。この事は自己の行為を導く手がかりとして、12ヶ月児が他者の情動表出を利用できる事を示している。
人見知り
生後9ヶ月頃になると、養育者には接近を求め、知らない人には人見知りが生じ、回避するという反応がはっきり見られる。特定の個人が愛着対照として認知されていることが分かる。
指差し
「対象を見てほしい」といった、対象に対する注意を共有しようとする叙述のコミュニケーションや、「対象を取ってほしい」といった要求のコミュニケーションのためにつかわれる。
共同注視
8か月頃になると、周囲の音や物への興味や関心が芽生え、特定の物を凝視したり、手を伸ばすようになる。これら子どもの行動に母親が気づき、同じ物に注意を向けたり、逆に母親の指差す物を子どもが見たりすること。
三項関係
物や人への注意から、物に注意を向けた後、母親に視線を移すことで自分の要求を実現できることを学ぶ。この「物と大人と子ども」の関係を三項関係と呼び、この関係の成立により伝達行動が習得される。
シェマ
もともと神経学の用語で、「先行する反応が後続する反応の道筋をつける過程」を指すものとして用いられていたが、その後イギリスの心理学者バートレットがこの語を研究に転用してからは「認識の枠組み」という意味で様々な分野に用いられるようになった。
同化と調節
あるシェマにもとづいて外界から情報を取り入れる(理解する)ことを同化、既存のシェマでは対応しきれないとき、シェマそのものを変えることを調節と呼ぶ。
アニミズム
ピアジェは、無生物にまで生命を認めたり、意識や意志などの心があるように扱う幼児の心理的特徴をアニミズムと名付けた。
対象物の永続性
どの対象も、見えなくなったり触れなくても、同一の実体として存在し続けること。生後の3、4か月の赤ちゃんも対象の永続性を知覚している。
自己中心性
ピアジェは前操作期の(2歳~7歳)の子供の心性を自己中心性という用語で特徴づけた。自己中心性とは、子供の言語と思考がまだ十分に社会化されておらず、自己以外の視点に立って話したり考えたりすることが出来ない様子をいう。
脱中心化
保存の概念が獲得されていない為に、みかけだけの1つの次元にだけ注目する事を中心化と言う。この中心化を脱する脱中心化が見られるのが5~6歳頃である。
観察学習
失敗を繰り返しながら試行錯誤の中で学習するのではなく、他者の行動を見て学習する事をいう。代理学習ともいう。
象徴機能
ある物をそれとは別の物で表現しようとする事をいう。例えば、積み木を車に見立てて遊ぶことがそうである。これは、2歳頃から見られるようになる。また、これを経てごっっこ遊びが成立するようになる。
保存の概念
見かけの形や配置が変わっても、質量や個数などの「量」は変わらないことを言う。例えば、2個の丸めた同じ重さの粘土の一方を細長く伸ばしたとしても、丸めた粘土と重さは変わらないというものである。これは、前操作期(2歳~7歳)にはまだ獲得されず、具体的操作期(7歳~11歳)で可能になる。また、この獲得を確認するための実験を保存実験という。
社会的参照
子どもが何か新奇な物事に出会った時に、それに対する理解や対応の仕方を養育者に視線を向けることで確認し、共有しようとする行為のこと。
ギャングエイジ
仲間集団が形成される小学校の中学年頃から、リーダーシップが問題となる。かつては、この時期に子供たちが閉塞性の強い徒党集団を形成して遊ぶことが多かったことから、ギャングエイジと呼ばれた。
アイデンティティ
自我(己)同一性ともいう。「自分とは何なのか?」に対し、「自分とはこういうものである」と答えが出ることである。エリクソンの発達理論において、青年期に用いられている。
心理的離乳
発達段階(青年期)においての用語で、ホリングワース,L.S.の提唱した概念である。青年期になり、それまでの両親への依存から離脱し、一人前の人間としての自我を確立しようとする心の動きのことである。第二反抗期とも言われ、親との葛藤・親への反抗といった強い分離不安を伴うもので、精神的に不安定になりやすい。甘えの雰囲気の強い家庭では、様々な家庭問題を引き起こしたりするが、同じ苦悩を共有する友人との相互依存関係を通して、漸次的に克服されていく。
モラトリアム
エリクソンが提唱した。アイデンティティの確立を獲得するために、青年期は社会的な義務や責任が猶予されている期間という意味でモラトリアム(準備期間)とした。
結晶性知能・流動性知能
キャッテル(Cattell,R.B.,1905-1998)は、知能を結晶性知能と流動性知能の2つの因子に区別した。
結晶性知能とは、言語や経験を生かすのに必要な知能のことであり、高齢まで維持される。
流動性知能とは、新しい問題を解決するのに必要な知能のことであり、青年期(25歳頃)を境に徐々に低下していく。
Erikson
エリクソンは生涯を8つの段階に分け、それぞれ発達課題をあげている。
①乳児期 (基本的信頼対不信)
②早期児童期 (自律性対恥・疑惑)
③遊戯期 (積極性対罪悪感)
④学齢期 (生産性対劣等感)
⑤青年期 (アイデンティティア対イデンティティ拡散)
⑥初期成人期 (親密性対孤立)
⑦成人期 (生殖性対停滞)
⑧成熟期 (統合性対絶望)
Piaget
ピアジェは思考の発達を4段階に分けた。
①感覚運動期―0~2歳
②前操作期―2~7歳
③具体的操作期―7~11歳
④形式的操作期―11~15歳
ピアジェの発生的認識論では、「シェマ」「同化」「調節」「均衡化」「操作」などが重要な基本概念として用いられている。
ハヴィガースト
生涯の発達課題を本格的に研究対象にした人物である。人生を6段階に分けて、それぞれ7ないし8つの発達課題をあげている。
エインズワース
愛着測定の手続きであるストレンジ・シチュエーション法を開発した。この方法は、乳児にとって見知らぬ部屋で8つの場面を設定し、不安を高め実験的に愛着行動を喚起しやすくするものである。
バルテス
生涯発達心理学を研究しているドイツのバルテスは、生涯発達を捉える理論的枠組みを提案している。
ボウルビィ
ボウルビィによって提唱された愛着とは、特定の他者に対してもつ情緒的な絆のことをいう。
ゲゼル
ゲゼルは一卵性双生児を用いた「階段のぼり実験」のような実験的研究から発達における学習準備性の概念を提唱した。
ローレンツ
ローレンツは動物の行動について複数の種について系統発生的比較を行ったが、鳥類にみられるインプリンティングの研究から臨界期の概念を提唱した。
サーストン
サーストンの知能因子論(多因子説)は、言語・語の流暢性・空間・数・記憶・帰納・知覚の7因子を基本的精神能力とした。
【参考文献】
編: 子安 増生「よくわかる認知発達とその支援」
監: 廣瀬肇「言語聴覚士テキスト 第2版」,2012年