学習認知-キーワード
刺激閾
感覚受容器は特定の種類の刺激(適刺激)にのみ興奮するという刺激選択性をもつが、受容器が興奮するためにはその刺激が一定量以上であることが必要となる。このように感覚生起に必要な刺激量の最小値を閾値、特に刺激閾という。
順応
順応とは感覚知覚において、継続的に刺激を与えられた場合や疲労などにより、感覚受容器の刺激に対する反応性が一時的に変化することをいう。順応の例として、暗い所で目が慣れる暗順応や、お風呂の熱さに慣れる現象などが挙げられる。
対比
対比とは知覚において、2つの刺激が並行して与えられた際に、それらの差異が実際以上に強調、もしくは抑制されて知覚されることをいう。刺激が同時に提示される同時対比、継続的に提示される継時対比がある。対比の例としては明るさの対比が有名であり、灰色が黒い背景にあるときは実際よりも明るく見え、白い背景にあるときは実際よりも暗く見える。
恒常性
観察者や環境の変化によって物理刺激が変化しても、その知覚は比較的変化しにくい現象を知覚の恒常性という。恒常性は明るさ、色、形、大きさ、方向、位置、音の強度などに認められている。
感覚遮断実験
外的環境からの物理刺激を極限まで少なくすることを感覚遮断という。感覚遮断実験とはHebbが行った実験で、被験者はトイレと食事の時以外、視覚、聴覚、触覚を制限された状態でベッドで寝て過ごすよう指示される。時間がたつにつれ被験者の知覚に変化が生じ、思考がまとまらず、生理的な覚醒水準は下がり、幻覚さえも認められる結果となった。生体が健康に生きるためには環境からの刺激が不可欠であることが明らかとなった。
共感覚
モダリティを超えた特殊な感覚。たとえば音を聴くと同時に色が見えるといった感覚であるが、この感覚を持つ人は限られている。
桿体と錐体
網膜の脈絡膜側に光を受容する2種類の視細胞がある。桿体細胞は感度が高く暗所でも光を検出できるが色を識別できない。錐体細胞は感度は低いが色を識別できる。
全体野
濃い霧に囲まれたときのように視野全体が一様に等質な刺激状況を全体野ないし等質野という。こうした状況では事物の知覚が成立しないのはもちろん、奥行きの知覚や方向の定位も定まらない
図と地
明るさの異なる領域が捉えられると形として知覚が成立⇒「図」と呼ぶ。「地」:それ以外の背景として認識される領域。
図と地の境界部分には輪郭が認識される。⇒「マッハ現象」光の強さが異なる領域の境界部分の信号(インパルス)が、差を強調させる仕組み(側抑制)が存在する。
※図と地の分化の条件:①認識可能な程度の明るさの違いがあること②一定の大きさとして存在すること③一定の時間その視野の中に存在すること
群化(知覚の体制化)
複数の図が知覚された時ある条件を満たすとそれらの図がまとまって別の形=図として認識される
(例)スイミー/ある条件:「まとまりの要因」「群化の要因」「ゲシュタルトの要因」
※群化の要因:
「隣接の要因(近くにある図同士はまとまりやすい)」「類洞の要因(同じ性質・色・形の図同士はまとまりやすい)」「閉合の要因(閉じた空間の図同士はまとまりやすい)」「共同運命の要因(特に動くもの、運命を共にする者同士はまとまりやすい)」
錯視(代表的な錯視図、現象)
図と地の分化の条件が揃ってないのに例外的に輪郭が見える。
(例)「カニッツアの三角形」「シューマンの見かけの輪郭」「エーレンシュタインの錯視図形」
※主観的輪郭:条件によっては明確な輪郭が見えることがある。その領域はあたかも線で囲まれた面のような性質をもって見える。明るさが増したように見え周囲よりも前面にあるように感じられる。
奥行き知覚(「奥行きの手がかり」)
2次元情報を3次元的に解釈する手がかり
両眼による手がかり
「両眼視差」:左右の目の位置の差によって左右の目の網膜にズレが生じる→両眼に与えられる像の差から対象までの相対的な距離を算出することで奥行きを知覚できる。
「輻輳」:両眼の視線が交わること。両眼が内転する機能のこと。→近くのものを見る場合、眼球が内転して視線が交わるようになる。その時の眼筋の緊張状態の情報(どの程度の違いがあるか)で距離感を認識している。
「輻輳角」:両眼の視線からなる角度。その角度は見る者の距離が近ければ近いほど大きくなる。
単眼のみでも可能な手がかり
「運動視差【経験的手がかり】」:対象の方向や速度の変化によって距離や位置関係を判断する。
運動知覚
「自動運動」:空間的位置の手がかりのない視界の静止している点を見つめていると点が不規則に動いて見える現象(例)星のさまよい、常夜灯
「誘導運動」:静止しているものと動いているものがある時、周りの動きの対象によって静止している方が動いて見える現象。(例)雲の間の月:雲の流れに逆らって月が雲の動きと反対方向に動いて見える。
「仮現運動」:静止している複数の対象が一定の時間間隔で出現したり消えたりすることで観察される(例)踏切のライト:交互に点滅=左右に行き来しているように見える。パラパラ漫画。アニメ。
学習曲線
練習試行に伴う成績の変化を示すグラフを学習曲線という。
プラトー
進歩が停滞する部分。「高原現象」ともいう。
フィードバック
結果の認識を常に伴って練習することで上達する。この結果の認識を「フィードバック」または「結果の知識」という。
自己受容感覚
自己と環境世界との関係に関する知覚の機能
全習と分習
全習:最初から全体としてひとまとまりで練習すること。
分習:部分に分けて部分の練習を積み上げていくこと。
全体としてまとめてできるものならば、分割しない方がよいと言われている。
集中と分散
集中:一定量の練習をまとめて休みなく行うこと
分散:休みを入れて小刻みに行うこと
分散の方がよい結果が得られる。
転移
ある学習の効果が、類似の学習に波及すること
・正の転移:ある技能学習が、それと類似した別の技能学習に促進的な効果を波及する場合
・負の転移:全学習が後学習に妨害的な効果をあたえること
社会的学習
他者の体験を見聞すること(代理経験)による学習。
観察学習
社会的学習の2つの段階の一つで、示範を観察することにより学習が成り立つこと
模倣学習
社会的学習の2つの段階の二つ目で、観察学習を実行し、示範と一致したならば効果(結果の知識)を受けて修正することにより学習が成り立つこと。言葉の学習は模範学習の代表例。
代理強化
観察学習における強化で、モデルが行動を示範してそのモデルに対して与えられる強化。バンデューラの実験。代理強化は学習そのものに関与するよりは、その実行に硬化を持つと考えた方がよい。
自己強化
ある基準に自分の行動が達したとき、自分でコントロールできる報酬を自分自身に与えてその行動を強めたり維持する過程
般化模倣
いくつかの模倣が強化を受けると、他の種類の模倣もモデルと同じであるということ自体が強化の性質を持つようになり、直接強化なしにでも生じる模倣
動機づけ
生体の行動を、始発させ・方向付け・推進し・維持させる仮定を総称して動機づけと呼ぶ。
要求水
個々の課題状況において、その個人が自ら設定する目標のこと。言い換えれば、「これだけは自分でもやれる」といった抱負の水準ということもできる。
洞察
生体が新しい課題状況におかれた際に、その状況を新しく見直すことによって再編成して、問題解決のための有効な手がかりを獲得する動きをいう。
試行錯誤
行動主義心理学の立場からの問題解決の基礎過程。ソーンダイクは問題箱と呼ばれる装置を考案し、その中に空腹な猫を入れる。偶然の成功から脱出に有効な行動だけが残り、脱出時間が短縮した。
習慣的構え
課題が与えられたとき、何度も用いてきたような解法をくり返して用いると、習慣的な構えができあがる。いったん習慣的な構えが出来上がると、新たな解法を見つけることが妨げられる。その反面、その都度あらためて解法を考える必要が無いので、習慣的な構えは効率のよい方法とも考えらえる。
機能的固着
本来の機能にこだわること。機能的固着が問題解決を妨害する。それを回避するためには、識別的な言語的命名をすることが有効であることが知られている。
類推
以前に解いたのと類似した問題を与えた時は、問題の本質に含まれる類似性によって有効な類推による推理が働きやすい。
帰納法
個々の事例を集めて一般的な原理を引き出すような方法を帰納法と呼ぶ。日常生活ではしばしばこの論法で推理することが多いが、誤りを犯しやすい。
演繹法
一般的な原理から個別の事例を推論するような方法を演繹法と呼ぶ。「冷害なら不作になる」という命題があるとき、その命題の逆「不作なら冷害である」や裏「冷害でないなら不作にならない」は成立するとは限らない。
拡散的思考
思考の道筋が多角的・多岐的であり、解決法は1つに決まっていない。古い目標・方法にしばられず、新しい方途を探索していく特色をもっている
集中的思考
思考の道筋が一方向的でチャンネルが決まっているもの。
概念形成と達成
ブルーナーらは、概念そのものが全く不明な状態で概念が作り上げられる場合(例えば、幼児が抽象的な概念を初めて学習するとき)を概念形成と呼び、概念について手掛かりとなる属性をあらかじめ知識として与えておいて、推理によって隠された概念に到達する場合を概念達成と呼んで区別した。後者の場合、被験者は次々に仮説を立て、有効な仮説を選ぶことによって、実験者があらかじめ設定しておいた概念に到達することができる。
トップダウン
記憶研究の方法の一つ。認知神経科学はトップダウン(概念駆動型処理ともいう)的に見ていき、脳と心の関係を解明しようと目指しているといえよう。
ボトムアップ
記憶研究の方法の一つ。認知理論的方法は記憶の諸現象からより一般的な理論的説明へとボトムアップ(データ駆動型処理ともいう)に見ていく。認知論的伝統の研究者は動物や脳損傷患者の研究にあまり関心を払わないし、脳過程とあまり関係づけようとはしてきていない。
スキーマ
人は日常生活上よく知られているさまざまな事物・事象を認知するとき、それらを新たな経験としてでなく、既知の知識の枠組みに照らして解釈しようとする傾向がある。このように定型的な認知の仕方・認知の枠組みをスキーマという。
【参考文献】
著: 山内 光哉「グラフィック学習心理学-行動と認知」
著: 香取 廣人「心理学」
監: 廣瀬肇「言語聴覚士テキスト 第2版」,2012年